論文:有酸素運動の限界は筋肉の消耗では決まらない?

人間の運動の限界について興味があります。運動しているときに、もう駄目だと力が出なくなる点のことです。前までは、筋肉の消耗が起こって運動限界になるとされていましたが、そうではないという2010年の論文を読みました。

 

論文情報

The limit to exercise tolerance in humans: mind over muscle

Samuele Maria Marcora他著

European Journal of Applied Physiology 109, pages763–770(2010)

リンク

The limit to exercise tolerance in humans: mind over muscle? | SpringerLink

 

まとめ

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有酸素運動の限界を推測する実験

 

感想

運動の限界は体の状態ではなく、頭が限界以上に努力したと思ったことで決まるとのことです。(<努力>というのが正確に何なのかはわかりませんでした)

確かに、脳が体の状態を全てモニターして限界を感じていたら、大変です。時間遅れもあるかもしれません。また、ある程度安全率を見ていないと、手遅れになって、体が損傷するかもしれません。

もしきついとなっても、まだ行けるということでしょう。

CPETとは??

CPETとは、心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test)の略です。CPXと書かれる場合もあります。

どの様な検査なのか調べました。

何をする

運動しながら呼気を分析して、体力を測定するものです。運動の方法は、自転車、ランニングなどです。

どんな感じ?

以下の写真のような感じで、口と鼻に機械をつけて、呼吸の空気をとり、分析するものです。これを運動をしながら行います。

運動の種類は、下の写真のようにランニングをする場合や、自転車をこぐ装置で運動する場合があるようです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/db/Ergospirometry_laboratory.jpg

Wikipediaより

 

どのようにやる?

一つの方法に決まっているわけではありませんでした。

自転車の場合の例では、最初3 分間の安静、そのあと、3 分間の負荷なしで自転車をこぎ、その後、毎分5~25 Wずつ負荷を増やして計測します。

10分程度継続して計測します。

また、一定の負荷量で行う場合もあるそうです。50 Wの一定負荷で6 分間行う等です。

 

参考文献

吉川貴仁 藤本繁夫 Ⅱ.診断と検査 3.心肺運動負荷検査(CPET)

 日本内科学会雑誌第101巻第6 号・平成24年6 月10日

 

旭光物産株式会社

      http://www.kykb.jp/load_ergo02.html

先天性心疾患の運動 アメリカの成人先天性心疾患ガイドラインから

先天性心疾患の運動の効果と制限について調べています。

2018 AHA/ACC Guideline for the Management of Adults With Congenital Heart Disease を見てみました。

AHA/ACCとは?

AHAはAmerican Heart Association(アメリカ心臓協会)

ACCはAmerican College of Cardiology(アメリカ心臓病学会)

です。

運動についての記述は?

3.6. Exercise and Sportsに運動についての記述があります。しかし、半ページ程度しかありません。

要約

 心臓リハビリテーションは、成人先天性心疾患患者の運動能力向上と心不全の改善に有効である可能性あり

 疾患状態によって適切な運動は違う

 臨床医が定期的に活動レベルを評価して、運動の種類と強度を決めるべき

 CPETを使って計測するのが良い(トレッドミルや、自転車エルゴメータも利用可能)

 

詳細

(以下は英文を一部抜粋して和訳しています)

身体活動は、参加者の身体的および精神的健康に有益であると広く認識されています。

活動の推奨事項は、患者の臨床状態と関心に基づいて個別化する必要があります。

運動能力は先天性心疾患によって異なり、疾患の複雑さが増すにつれて能力が(一般的に)低下するという証拠があります
患者の病変ごとの典型的な運動能力に関する知識は、適切な活動の推奨を行う際に重要です。

自発的な活動は通常、最大運動能力の40%から60%ですが、フィットネストレーニングは最大能力の60%から80%で行われます。

運動能力は、最大酸素消費量で定義されます。

CPETを使って評価するのが一番ですが、トレッドミルまたは自転車エルゴメーターも、CPETと比較して貴重な情報が利用できない可能性があることを認識して、運動能力評価に使えます。

心臓病患者の他の集団と同様に、不活動は運動能力の低下につながります。
定期的な運動と心臓リハビリテーションは運動能力と心不全症状を改善する可能性があり、奨励されるべきです。

 

まとめ

一般的な情報のみですが、CPET等で計測して、医師の指示のもとでやるのが良いとされているようです。

この文書は、成人先天性心疾患を対象にしているので、子供の場合に当てはまるかは定かではありません。

注意点

公開情報をまとめたものです。ミスの可能性もあります。必ず元文書で確認ください。

パイオニア自転車関連事業の終了2 どんな特許がある??(特許第5490914号)

イオニアの自転車関連事業について前回に続いてまとめてみます。特許をピックアップしてまとめます。

ここでは特許第5490914号についてです。

特許の概要

【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)

【発明の名称】測定装置及び測定方法

特許権者】パイオニア株式会社
【発明者】
    児玉 泰輝
    藤田 隆二郎
    塩田 岳彦
    亀谷 隆真

位置づけ

前回抽出した19件の特許のうち、この特許以前の出願は、「風検出装置」のようにペダリングモニタのコンセプトとは異なっているように見えます。

そこで、現在につながる最初の特許として、この特許をピックアップしてみました。

請求項1

ユーザによる力をクランク及び1つ以上のギアのうち選択された1つのギアで伝達する人力機械の前記クランクの歪を検出する歪検出部と、

前記クランクが一定位置を通過したことを検出するセンサと、

制御部と、を有し、

前記制御部は、

前記センサが検出した前記クランクが一定位置を通過した時間からの経過時間によって前記クランクの回転角度を算出し

前記歪検出部が検出した前記クランクの歪量から前記クランクに加わる力を算出し、

前記回転角度と前記クランクに加わる力との対応を算出することによって、ユーザが加えた力の分布状態を算出する

人力機械に加わっている力の測定装置。

分析

修正の有無

 出願時と登録時で請求項1の文面は全く変わっていません。

クレーム

 クランクの歪から力を計算して、回転角度毎に表示するというパイオニアの商品の特徴について権利化されている特許でした。

 

 赤字の部分に注目します。クランクがある場所を通過してからの時間で回転角度を算出している様です。

商品もそうなっているかは不明ですが、知りませんでした。低コストで実現可能な方法だと思います。一方で、当然精度はよくないですが、実用上問題ないレベルという判断をしているのだと思います。

ただ、この部分の手段についての記述は不要な気がします。時間以外の手段でも回転角度を算出できるからです。限定しないと権利化できなかったのでしょうか?

 

クランクの回転角度位置毎に力を分析する装置は、本特許以前にも存在しています。それをクランクの歪と、基準位置の通過からの経過時間で算出した角度によって実現したところが権利化されているということだと思います。

 

感想

 シマノからこの特許を利用した製品が出てくるかはわかりません。

しかし、(一つの特許だけで、ポートフォリオの評価はできませんが)この特許を回避して同じような機能を実現することは不可能ではないと思います。

 

 

パイオニア自転車関連事業の終了 事業の歴史と知的財産概略

2020年 2月 4日にパイオニア株式会社から自転車関連事業の終了が発表されました。突然のことで驚くとともに、大変残念に思います。

jpn.pioneer

2020年2月7日のパイオニア サイクルスポーツfacebookペダリングモニターの生産が終了と発表されており、今後のサポートはパイオニアに残るとされているので、部品や製造設備は移管されないのかなと思います。(もしかしたら製造請負なのかもしれませんが)

おそらく、知的財産はシマノに譲渡されると思われますので、特許について調べてみました。(すべて公開情報からまとめました)

 

事業の歴史

2008年12月 新規テーマとして提案

2010年11月 サイクルモード出展

2011年7月 ラボバンクでのテスト開始

2013年7月 テスト販売開始

2020年3月 販売終了

プロジェクト開始からテスト販売まで4年半かかっています。そこから6年半で事業中止になりました。とても惜しいです。

特許検索

全文 自転車

出願人 パイオニア

発明者 藤田 隆二郎

 

で行ったところ、19件ヒットしました。

出願年

     2016年(1件) 

     2013年(1件)

     2012年(3件) 

     2011年(3件) 

     2010年(10件) 

     2009年(1件)

  2009年から12年までに多くが出願されています。

状態

登録17 放棄1 拒絶1となっています。

登録はすべて国際出願されていますし、維持もされています。期待の大きさがわかります。

 

出願日 題名 生死判定
2016/8/10 測定装置 拒絶査定
2013/1/11 測定装置 特許第5989804号
2012/3/5 回転角度検出装置及び回転角度検出方法 特許第5802825号
2012/3/5 運動用の指標値算出装置、運動用の指標値算出方法、運動用の指標値算出プログラム及び運動用の指標値算出プログラムを記録可能な記録媒体 特許第5857120号
2012/3/5 計測装置、計測方法、計測プログラム及び計測プログラムを記録可能な記録媒体 特許第5815115号
2011/11/2 検出装置、検出装置が取り付けられたクランク及び検出装置がクランクに取り付けられた自転車 特許第5696224号
2011/9/30 パワーメータ、仕事率測定方法、プログラム及び記録媒体 特許第5719936号
2011/9/30 回転角度検出装置及び回転角度検出方法 特許第5739000号
2010/10/29 ペダリング目標設定装置、ペダリング目標設定方法、ペダリング目標設定プログラム、ペダリング目標設定プログラムを記録した媒体 特許第5490917号
2010/10/28 測定装置及び測定方法 特許第5483300号
2010/10/28 測定装置及び測定方法 特許第5483299号
2010/10/26 ペダリング状態検出装置、ペダリング状態検出方法、ペダリング状態検出プログラム、ペダリング状態検出プログラムを記録した媒体 特許第5490916号
2010/10/25 ペダリング矯正補助装置、ペダリング矯正補助方法、ペダリングの矯正を補助するプログラム、ペダリングの矯正を補助するプログラムを記録した媒体 特許第5490915号
2010/10/22 測定装置及び測定方法 特許第5490914号
2010/7/30 風検出装置 特許第5489137号
2010/7/30 風検出装置 特許第5489136号
2010/7/30 風速計測装置 年金不納による抹消
2010/6/17 仕事率計測装置 特許第5639168号
2009/12/2 情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法及び自転車用地図 特許第5315419号

 

まとめ

かなり頑張っていたので、何とかうまく行ってほしかったです。

次回は個別の特許についてみてみたいと思います。

 

フォンタン患者の運動についての論文を読む

論文

T. Takken 他

Exercise prescription for patients with a Fontan circulation: current evidence and future directions

Neth Heart J. 2007 Apr; 15(4): 142–147

です。

本論文の目的

フォンタン循環患者の運動トレーニングの効果に関する文献のレビューです。2006年以前に発表された論文が対象です。

体調の良いフォンタン患者の運動効果についての論文6本をまとめています。

フォンタン循環とは

心臓に問題があるため、血液の流れを外科手術で変えた状態です。体から心臓に帰ってきた血液を心臓を通さずに肺につなげた状態になっています。

文献検索方法

この論文で過去の研究を検索している方法です。

Medline、Embase、およびSportdiscusデータベースを使用しています。期間は1966年から2006年11月まで。 検索用語は、「体力」、「運動トレーニング」、「心臓リハビリテーション」、「運動」、「運動能力」、「運動耐性」、「フォンタン」および「単脳室」としています。

検索対象期間の長さにも関わらず、2001年以降の文献しかヒットしてないようです。この分野が注目されたのは最近ということなのでしょう。

分析:過去事例でやっていることまとめ

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過去事例の条件まとめ

運動強度は50-80%で、時間は20分から1時間、週2回から3回を、3か月以上継続しているようです。内容は自転車やウオーキングと筋トレです。

被験者人数はいずれも10人程度と少な目です。

論文の結論

6つの発表されたすべての研究で、運動トレーニングがフォンタン循環患者の運動能力を改善できることが示されたとしています。(指標によっては、顕著な改善とは言えないという結果もありますが、6研究がそれぞれ何らかの改善をしているという意味)

ただし、6研究は小規模なものなので、より厳密な研究デザイン(被験者を増やす、コントロールグループなど)と、より長期間の観察などの更なる研究が必要という結論になっています。

読んでの感想

運動しているので、能力が改善しているのは予想どおりだと思います。むしろ悪影響はないのかということが気になります。

このレベルの運動ができるということは、よい状態の患者だと思われますので、そうでない人も含めて患者の状態に応じて運動の設計ができるように(論文にも記載のとおり)さらなる研究が必要だと思います。

 

先天性心疾患の重症度診断に深層学習を使うと医者よりも性能がよい?(三重大学)

三重大学から、先天的に心臓の左右間の壁に穴が開いている症例の深刻度をX線画像から判定するタスクに深層学習を使った結果が発表されています。

リンク

www.ncbi.nlm.nih.gov

個人的理解

X線画像から疾患の深刻度を判別する目的です。深刻度は、肺体血流比で定義しているようです。

X線画像から、カテーテルで判別した結果を教師として転移学習して求めています。(肺体血流比を求めているのか、深刻か非深刻かの2値判定なのかは不明)

 診断一致率は、3人の認定小児心臓専門医と比較しています。

カテーテル実施の1か月前以内にX線撮影している患者のデータを使っています。(657人の患者に対して行われた1031件)そのうち100カテーテル(78人分)を検証用データとしてランダムサンプリングしています。

 

人の結果が100問中49正解に対して、この処理の結果は100問中64正解で処理の方がうわまったという結果です。

 

肺体血流比とは、心臓から肺に行く血液と、体に行く血液の比です。

心臓に穴が開いてない場合、肺に行った血液が、心臓に帰ってきて、そのまま体に行くということで一本道で連続であるため、両者は同量になって肺体血流比は1になります。

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中隔欠損でない場合の血液の流れ

 

左右間に穴が開いていると、本来体に行くべき血が肺の方に流れて行ってしまうので、肺体血流比は1より大きくなるようです。

 

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中隔欠損がある場合の血液の流れ

 

Fick-derived pulmonary to systemic flow ratio:カテーテル検査で求めた肺体血流比

理解が難しかった点

X線から推定するのがベストか?

肺体血流比をX線画像から計測するのが、実用上一番よい方法なのかはよくわかりませんでした。心臓の超音波でも計測できるとの報告もあるようです。

超音波画像は、学習するのが難しそうなので、X線にしたという可能性もあるかもしれません。

人間がよくやっている作業なのか?

医者がX線からの肺体血流比計測をよくやっているのかがわかっていません。X線だけで心臓超音波をやらないというのはあまりなさそうに思えます。このタスクに限定すれば人よりも高精度といえると思いますが、人があまりやってない作業だと、比較はフェアではないかもしれません。

いずれにしても、人と機械が競争することにはあまり意味はなく、ある目的があったときに、機械が得意な作業を採用して高精度に達成可能ならば、有意義だと思います。